研究発表−1
 
 ここでは、1998年と1999年に安佐医学会で発表させていただいた時の発表原稿を、そのまま載せてあります。お役に立つかどうか分かりませんが、よろしかったらご覧ください。なお著作権は当方にございますので無断転機はご遠慮ください。

「老人デイケアにおける音楽療法の導入」
第10回(1998年) 安佐医学会で発表

 この発表はビデオを用い音楽療法の実際を見てもらいながら発表しました。
ここではその時ビデオ内に挿入したスライドを載せてあります。
スライド1
 私は、昨年5月から音楽療法を担当しております。今日は、最近我が国でも少しずつ取り上げられてきております「音楽療法」についてご紹介したいと思います。
 私は専門家でもありませんし経験も浅いので、あまり詳しいことはご説明できませんが、試行錯誤で実践してきた1年半の成果などをお話いたします。
スライド2
 音楽というものは、実に不思議な力を持っています。皆さんもご経験があると思いますが、音楽を聴いて、リラックスする事ができます。反対に気持ちを高揚させることもできます。また昔のことを回想したり、心を慰めたり、苦しみを癒したりもしてくれます。音楽療法は、そのような音楽の持つ不思議な力を応用して、心身に失調や障害のある人々を、改善あるいは回復に導き、健康で社会復帰できることを目指す心理療法のことです。今BGMが流れていますが、実はこれは私の緊張をほぐすのに役立っているのです。
スライド3
 音楽療法は、実に広範囲な現場で実践されています。心療内科領域では、精神分裂病・うつ病・神経症・心身症などに、老年医学領域では、老人性痴呆症を中心に、末期医療領域では、末期癌やターミナルケアにおいての疼痛や恐怖感の緩和、QOLの向上などに、成分献血や人工透析の現場では不安の緩和、リラクセーション、自律神経系の安定などに効果があるようです。そのほかに外科の術前・術中・術後の不安緩和。歯科では疼痛と不安の緩和、産科では胎教と出産時の疼痛や不安の緩和などに用いられています。最近では小児科でも未熟児の発育促進や免疫力の向上などが見られた報告もなされています。
スライド4
 さて、私たちのデイケアでは主に痴呆症患者さんと、ほかのプログラムに参加できない人を対象に、音楽療法を行っています。クライアントの平均年齢は84才以上です。セッションは月に3〜4回で1セッションは約1時間の集団音楽療法です。スタッフは進行役のセラピスト1名と、ピアニスト1名、アシスタントが1〜2名です。
スライド5
 座席はセラピストが前に立ちクライアントはお互いの顔が見えるようにテーブルに向かって楕円形に座ります。色々やってみましたが、この形がクライアントの緊張感が無く、最も良いようです。
 私たちは歌を歌うこと、聴くこと、演奏することの全てをプログラムに入れることで様々な刺激を与え脳の活性化を図っています。
 まず、アシスタントのデイスタッフによる見当識訓練(リアリティー・オリエンテーション)から開始します。ROボードの空欄を埋めていってもらい場所や時刻の認識をしてもらいます。
 それが終わるとデイケア・オリジナルの「おはようのうた」を、セラピストとクライアントの掛け合いで歌います。最初から自分も参加しているんだという意識を持たせるためです。
 次にクライアント一人ずつに自分の名前を言ってもらい、ピアニストが即興で名前にメロディーを付けて歌いながら呼びかけ、返事をしてもらいます。最初は恥ずかしがって、小さな声しか出ませんでしたが、回が進むにつれ名字だけでなくフルネームを言う人や、生年月日や、挨拶を添える人まで出てきました。これも見当識の維持、回復に効果があります。
 挨拶が終わると駆けつけ3杯ならぬ「駆けつけ3曲」のコーナーです。季節にあった曲を選び全員大声で歌います。童謡・唱歌・流行歌・民謡など色々なジャンルから選曲します。歌った後は、その季節や歌った曲に関連する話を、掛け合いでします。痴呆のある人でも音楽は昔を思い出させてくれます。みんな昔話をするときには、目が輝き、発語も増えるようです。
 気持ちが乗ってきたところでリズムに合わせて、軽い体操や指遊び、発声練習などを毎回少しずつ行います。動きの少ない高齢者にとって、身体機能の維持と改善のためにとても大切なことです。
 聴くことでは、セラピストとピアニストの即興演奏を聴く、CDで懐かしい音楽を聴く、ビデオできれいな風景入りの童謡・唱歌を見る等のプログラムを使います。なじみの歌が多いのは確かですが、ジャンルにこだわらず、色々と聴かせてあげることが大切です。音楽だけでなく、風鈴・虫の声・オルゴール等の音を聞き回想してもらうこともしています。
 演奏型プログラムとしては、ハンドベルや打楽器、手拍子、ミュージックテーブルの演奏を取り入れています。リズム知覚刺激は心身の活性化を期待できます。
スライド6 ハンドベルは、一人ひとつずつを持ち、セラピストの合図で音を出してもらいます。グループに分かれて和音で演奏したり、一人ずつに合図してメロディー演奏したりと色々なパターンができます。
 打楽器や手拍子は、テープやCD、ピアノやパソコンと色々なメディアを使い、のりのいい曲を選び演奏してもらいます。特にジャンルにこだわる必要は無く、流行歌や民謡、時にはロックということもありますがリズムはあくまでも自由に、思いのままに打ってもらいます。この時には、ほとんどの人が一心不乱に、とてもいい顔をして演奏しています。打楽器演奏はプログラムの中でも、特に自己表現ができ、満足感が得られます。そして「また参加したいなあ」という意欲を持たせることができるのです。
 ミュージックテーブルというのは、五角形のテーブルで、テーブル上に叩くと音が出るパッドがあります。コンピューター内蔵で、打楽器音、動物の鳴き声、ピアノなどのメロディックな音や特殊な効果音まで、色々な音が出るようになっています。またディスクを入れると曲を流すこともできます。これは曲に合わせて打楽器として叩く、曲のメロディーを叩く、効果音を使ってゲームをするなど大変多くの利用方法があります。クライアントにとって結構人気のある道具です。
 その他に、見る・理解する・考える・表現する等の複合的な刺激で脳の活性化を図るためのプログラムがあります。
 その一つにサイコロゲームというものがあります。二つのサイコロを振り、出た目の合計分手を叩くとか、出た目と同じ番号の歌を歌うなどです。サイコロを振る動作、足し算能力、記憶力、集中力などが必要です。
 そのほかには、音カルタというものがあります。これは数枚の絵をテーブルに並べておき、ピアニストが弾いた曲と関係のある絵を探し出したり、その絵について話すというものです。絵の理解と曲の関連づけ、発想の能力が必要とされます。
 これらのプログラムは最初は簡単にできるようにし、だんだんと複雑にしていくことが大切です。
 セッションのの最後は、これもデイケア・オリジナルの「さようならのうた」を掛け合いで歌います。
 全てのプログラムはセッションの様子をよく観察し、毎回単調にならないよう工夫する必要があります。
スライド7
 この1年半では、まだ臨床的な効果を検討するところまでに至っておりませんが、クライアントには次のような変化が見られましたので報告いたします。
 (1)音楽療法がクライアントの楽しみとして生活に浸透してきました。音楽療法には特に興味を示し、積極的に参加できるようになっています。
 (2)毎回土曜日にセッションを行うことで、当日の曜日を確認できるようになりました。セラピストやピアニストの顔を見ただけで、音楽療法があるということがわかるようになった人もいます。
 (3)セッション中は徘徊が減少しています。
 (4)音楽療法の後は、情緒が安定していて、表情がよく、全身の動きも良くなります。
 (5)MMSやHDS?R等、痴呆検査での向上は見られていません。
 高度の痴呆患者さんにはこのような変化も見られませんが、それでも時として急に歌い出したり、手を動かしたりという反応が見られます。この反応を見逃さず今後の治療に役立てていきたいと考えています。
 実際、音楽療法をした後元気になるのはクライアントだけではなく、私自身も不思議と元気になるのは、音楽の持つ力のせいなんだなと感じます。皆さんも各職場で、音楽のある環境を作り、まず自分たちから音楽の恩恵を感じてみてはいかがでしょうか。
 では、これで発表を終わります。どうも有り難うございました。

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